昨今、農業ビジネスが話題になっています。法改正により新規参入しやすくなった農業は、新たなビジネスモデルもさまざま登場し、若者からの関心も高まってきました。
若者の関心が高まる中、近年では実際に49歳以下の若者の、農業への新規参入が増加しています。労力の負担が大きく儲からないというイメージで、昔から若者に敬遠されてきた農業に、どのような変化が起きているのでしょうか。
この記事では、農業従事者の現在の傾向から、就農する若者が感じている農業の魅力、
農業経営や就農するためのポイントについて解説していきます。
農業に興味をある人は、ぜひ読んでみてください。
農業に挑戦する若者たちが増えている
日本では農業就業人口数は減少傾向にありますが、昨今は農業に挑戦する若者が増えています。
農林水産省の統計から、令和以降の新規雇用就農者数と新規参入者数は増加傾向であるとわかりました。
令和元年 | 令和2年 | 令和3年 | |
基幹的農業従事者 | 136.3万人 | 130.2万人 | 122.6万人 |
新規自営農業就農者 | 42,700人 | 40,100人 | 36,900人 |
ーうち49歳以下 | 9,200人 | 8,400人 | 7,200人 |
新規雇用就農者 | 9,900人 | 10,100人 | 11,600人 |
ーうち49歳以下 | 7,100人 | 7,400人 | 8,500人 |
新規参入者 | 3,200人 | 3,600人 | 3,800人 |
ーうち49歳以下 | 2,300人 | 2,600人 | 2,700人 |
新規自営農業就農とは、自営農業している個人経営体に世帯員が就農することを指します。
農家自体が廃業などで減少すれば世帯員が自営農業の経営体に就農する機会は減るため、農業従事者が減少してる現状では、新規自営農業就農者の減少は自然な推移です。
農業従事者や新規自営農業就農者は減少しているものの、新規雇用就農者や新規参入者は、年々人数が増加し、どちらも若者は7割以上と高い割合を維持しています。
農業に挑戦する若者たちが増える背景とは?
農業に挑戦する若者たちが増えている理由の1つが、日本の社会で長く問題視されている就職難です。
大学新卒の就職率は上昇傾向にありますが、仕事に就けない若者はまだまだ多くいます。
そのような若者たちが働き口として注目したのが、就業人口が減少して人手不足に悩まされていた農業です。
農業従事者の高齢化を防ぐため、国が新規就農者向けのさまざまな支援施策を打ち立てたのも、就農する若者が増えた理由の1つでしょう。
また、食の安全性に目を向ける消費者も増えているため、オーガニック野菜や無農薬野菜などの栽培や販売を、稼げるビジネスとして注目し始めた若者もいます。
以上のようなさまざまな背景により、昨今では農業に挑戦する若者が増えているのです。
若者が農業を選ぶ理由とは?
昨今の若者が就業先として農業を選ぶようになった理由について紹介していきます。
若い年代が就業の選択肢に入れたくなる、現在の農業のメリットや魅力に注目してみてください。
以下の3つの要素は、これから就職や転職を考えている人にとっても興味深いポイントでしょう。
- 農業で得られる安定した将来性
- SNSを活用したマーケティングに魅力
- 支援制度が充実・新規就農のハードルが低い
それぞれ詳しく解説していくので、今の農業が気になる人はチェックしてみてください。
農業で得られる安定した将来性
一昔前は「儲からない」や「キツイ・汚い・危険」の3Kのイメージで多くの人に敬遠されてきた農業ですが、昨今は将来性のある産業として見直され始めています。
従来の農業は非合理的かつ非効率的な生産性で、物流システムの点から見てもある程度の規模で経営できないと儲からない職業でした。
しかし、近年ではAIシステムにより農作業の効率を上げられるようになり、ドローン散布機や水田センサーにより、管理作業の省力化もできるようになっています。
インターネットを活用すれば、既存の物流システムのほかに、新しい販路の開拓も可能です。
実際に農林水産省の令和3年度の調査結果では、水田作・畑作・果樹で計58事例の生産アップや省力化を実現している事例が報告されています。
労力の割に儲けが出ないというのは、もはや過去の話です。現在の農業は技術の発展やIT技術の導入により、今後安定して稼げる職業として注目されています。
SNSを活用したマーケティングに魅力
SNSを活用した魅力的なマーケティングも、SNSが身近な若者たちから関心が集まるようになった理由の1つです。
昨今は農業経営にSNSを取り入れている農家が増えてきており、1万人を超えるフォロワーを持つ農業系インスタグラマーもたくさんいます。
SNSは広告宣伝として情報発信できるだけでなく、別の農家や企業が発信する農業の最新情報を得やすいほか、価格を自ら決定できる直接販売にも活用可能です。
実際に、若手従業員がSNSを活用して玉ねぎの売り上げを4倍までに伸ばした兵庫県の「2525ファーム」という法人会社もあります。
従来になかったマーケティング方法で結果を出す農家が現れ始めたことにより、現代に通用するビジネスとして、農業の見方が変わった若者が増えているようです。
支援制度が充実・新規就農のハードルが低い
新規就農者向けの支援制度が充実している点や新規就農するハードルが低くなった点も、若者が農業を選ぶ理由の1つでしょう。
以下のように、就農を推進する支援施策はさまざま打ち出されており、若者の新規就農の後押しをしています。
新規就農者への支援 | 概要 |
認定新規就農者制度 | 新規就農者に対して重点的に支援措置を講じるもの |
経営発展支援事業 | 就農後の経営発展のための機械や施設などの導入支援 |
農業次世代人材投資資金 | 就農前の研修を後押しする資金や就農直後の経営確立を支援する資金の交付 |
青年等就農資金 | 新規就農者向けの無利子資金制度 |
農協等向け新規就農者税制 | 農協などの償却資産の固定資産税を軽減して新規就農者の初期投資の負担軽減を図る |
就職氷河期世代の新規就農促進事業 | 就職氷河期世代の就農を後押しするための研修期間に必要な資金の交付 |
また、近年は農業を学べる教育研修機関が多く、自治体やJA、民間企業による研修や農業体験ができるインターンシップも盛んです。
就農前に学べるチャンスが増えたほか、ハイテク化により労力の軽減化が進んでいる現在の農業は、未経験の若者でも始めやすい仕事に変化してきています。
農業ビジネスに興味を持つ若者へ
これから農業へ新規参入を考えている若者やビジネスとして農業に興味を持っている若者のために、大切なポイントを紹介していきます。
農業経営をスタートする上で重要なのは、以下のような事前準備やリスクヘッジに関する情報収集です。
- 農業ビジネスに必要なスキルと知識
- 事業計画を立てる
- 資金調達方法と注意点
- 保険や助成金について
農業ビジネスを検討している人は、ぜひ参考にしてください。
農業ビジネスに必要なスキルと知識
農業ビジネスにまず必要なのは、栽培技術や農業経営に関する知識です。
そもそも栽培技術を身につけなければ、収入を得るための農作物を作れません。
種まきから収穫・出荷までの一連の流れや農作業を体験しておくほか、経営していくために何が必要になるかしっかり学んでおきましょう。
また、技術や知識など農業情報を日々チェックして、農業経営に役立つものを増やしていくのも大切です。
長い年月をかけて確立された優れた栽培方法や経営方法に習うのも大切ですが、慣行にとらわれているだけではビジネスとして発展していきません。
近年は、農作業の労力軽減に役立つICT技術や自動作業が可能な農作業機械の実用化など、農業技術は飛躍的に進化しています。
農業経営に役立つ知識を得るなら、セミナーや勉強会への参加も有効です。
新しい技術の導入や、農家としてのブランディングなど、ビジネスの可能性が広がるスキルや知識は積極的に取り入れる姿勢でいましょう。
事業計画を立てる
独立就農を考えている人は、おおよそ5年先までの事業計画を立てる必要があります。
独立就農の際に農地を取得するには、市町村の農業委員会などに営農計画書を提出し、営農計画を含む諸条件の審査をクリアしなければなりません。
営農計画書は、以下の3つの計画をおおよそ5年先まで可視化できるよう策定します。
- 生産計画…どの品目をどの程度の規模でどのような方法で生産するかを決める計画
- 販売計画…販路の開拓・確保に販売方法や販売単価を決める計画
- 資金計画…自己資金・借入金・生活費・施設や機械への投資などの資金繰り計画
経営の見通しを立てるのはけっして簡単ではありません。しかし、農業委員会や行政機関の農業関係部署、先輩農家やJA関係者に相談すればアドバイスをしてもらえます。
地域の人の助言も含め、多くの意見を参考にして、綿密に営農計画を立ててください。
資金調達方法と注意点
農業経営のための資金調達方法と注意点について解説していきます。
新規独立就農には、まとまった資金が必要です。令和3年度の「新規就農者の就農実態に関する調査結果」では、就農1・2年目に営農面でかかる機械施設費用や必要経費は、平均で830万円かかっています。
これに対し、新規就農者が準備した営農面の自己資金平均は291万円で、営農するのに約540万円足りていません。足りない金額は、助成金や支援制度を利用するほか、融資などで埋め合わせる必要があります。
新規の農業経営で資金調達するのであれば、農業に特化した以下の5つの融資がおすすめです。
- 農業経営基盤強化資金…JAバンクと日本政策金融公庫で申請できる超低金利の融資
- 青年等就農資金…認定新規就農者に事業開始に必要な資金を無利子で提供する融資
- 経営体育成強化資金…専業農家や農業法人を対象とした低金利の融資
- 農業経営改善促進資金…必要に応じて資金調達が可能な短期的な借り入れ主体の融資
- アグリアシストプログラム…農業経営者向けの一般的な事業融資
注意点としては、農業経営基盤強化資金や青年等就農資金、農業経営改善促進資金などの制度融資は認定新規就農者しか融資を受けられません。
資金調達の選択肢を多く確保したい人は、都道府県の普及指導センターや認定主体の市町村などに問い合わせ、認定新規就農者について相談してみてください。
保険や助成金について
農業ビジネスを安全にスタートさせるためにも、保険や助成金についても知っておきましょう。
農業経営には、自然災害や市場価格の下落による減収など、経営努力だけではカバーしきれないリスクがさまざまあります。
農業経営者は、NOSAI全国連の収入保険に加入しておけばさまざまなリスクに対する補償が受けられるほか、営農にあった補填やつなぎ融資の受け取りが可能です。
分割払いが可能で料金が安いタイプの保険もあるので、気になった人はNOSAI全国連のHPからチェックしてみてください。
また、新規就農者育成総合対策により、就農時49歳以下であれば経営開始資金(市町村から交付)や就農準備資金(都道府県などから交付)の助成が受けられます。
経営開始資金なら最長3年間、就農準備資金なら最長2年間で、共に毎月12.5万円の支援が受けられるので、都道府県や市町村のHPで詳細などをチェックしておきましょう。
農業経営を始めるうえでの重要なリスクヘッジとなるので、対象条件や交付条件をしっかり確認して、利用できる人はぜひ活用してください。
若者がこれから就農する際に心がけるポイント
これから就農する若い人たちに、心がけてほしいポイントについて解説していきます。
農業は伸びしろがあり、将来性のある産業ですが、ビジネスとして発展させていけるかどうかは、就農者の心がけ次第です。
就農に興味はあるけど、現時点で具体的な目標がなく、続けられるか不安で本腰を入れて就農するか悩んでいる若者もいるでしょう。
本格的な農業経営でなくとも、小規模栽培や雇用就農から始めても問題はありません。
ただし、以下の2点を心がけておくと就農後のキャリアアップに役立ちます。
- 地域・気候の特性を考慮する
- 同業者との横のつながり
詳しく解説していくので、就農を検討している人は参考にしてください。
地域・気候の特性を考慮する
これから就農を考えている人は、地域や気候の特性について知っておきましょう。
農作物は、品目によって適した地域や気候があります。
育てたい品目がある人は、その品目がどの地域や気候が最適か調べてみてください。
就農したいと考えてはいるものの、目標や育てたい品目が特に決まっていない人は、就農したい地域の就農相談会やセミナーへの参加がおすすめです。
都道府県などが主催している相談会やセミナーでは、農業未経験者でも相談しながらサポートまで受けられます。
市町村や栽培品目の紹介のほか、地域に最適な品目など具体的にアドバイスしてもらえるので、就農のイメージもしやすいでしょう。
地域や気候の特性は、農業をビジネスとして確立していく上での重要な要素にもなるので、知っておくと将来ビジネスとして展開させたいときに役立ちます。
同業者との横のつながり
農家は同業者や関連業者との横のつながりがとても大切です。
農業地域には、必ずといっていいほどコミュニティがありお互いに助け合っています。
農業団体などの同業者だけでなく、役所の農水産課や地域の観光協会とのつながりも農業経営の大きな助けとなるでしょう。
農家とつながりができると経営や栽培のアドバイスをしてもらえるほか、農機具や農地を借りれるケースもあります。
ちなみに農地は行政機関以外では、農家しか貸し出せない決まりがあるので、農業をしたい地域があるのならその地域の農家とつながりを作っておくのはとても重要です。
つながりを大切にすると得をする機会も増えるので、就農を考えている人は、積極的に同業者とのつながりを持ちましょう。
定年がない農業は安定したビジネス
工夫次第でサラリーマン以上の年収を稼げる農業は、将来安定した収入を目指せる魅力的なビジネスです。
農家はサラリーマンのように定年がありません。体が元気であれば、進化を続ける今の農業なら老後も安定した収入が得られるでしょう。
今後農業技術が発達していけば、より労力を必要としない栽培や作物管理ができるようになるかもしれません。
その場合、経営に重点的に注力できるので、より高収入を得るための経営や事業の拡大などもできるようになります。
現状ではクリアすべき課題もまだありますが、それも農業の伸びしろです。
若い人は、ぜひ農業に挑戦して地域との交流や既存のノウハウを活用し、より良いビジネスとして発展させてください。